ペダリング解析で横道にそれる人が続出しているが…


パワーメーター市場が活況を呈しているが、ユーザーの多くが興味を寄せるのが、一部の製品で計測可能なペダル踏力の左右バランスやペダルストロークの各角度ごとの出力ベクトルといった、ペダリングに伴って発生する現象を仔細に捉えたデータだろう。

インターネット上では熱心なユーザーらによるペダリンググラフについての議論やペダリング改善のためのトレーニングメソッドの公開などが盛んだ。しかし現時点では、最先端の運動生理学をもってしても、ペダリング分析はおろか、そもそも「理想的なペダリング」がどのようなものかということさえ判明していないという事実を知らない人は多い。将来、科学や医学の進歩により、ペダリングに関するミステリーが解き明かされる日が到来することは間違いないが、少なくとも現時点で専門外の人間が思いつきであれこれ行う分析や練習は、無駄な時間に終わる可能性が高い。パワートレーニングのメリットは「高効率」だが、「無駄」はその反対だ。

人間の運動能力が向上するのはトレーニングで身体に負荷(ダメージ)を掛けている時ではなく、身体がそのダメージを克服するべく回復する時である。したがって、身体にすでに備わっているダメージ耐性を超える負荷を与えることがトレーニングの鉄則であり、すなわちパワートレーニングで取り組むべきは、各ゾーンごとに必要とされる強度を把握し、一定時間その強度をキープすることで能力向上を図るゾーントレーニングとなる。

ゾーントレーニングは選手のレベルにかかわらず、誰にでも確実にパフォーマンス向上をもたらしてくれる。実際に、トレーニングスタジオ『Astuto Continental』の会員たちが軒並み成果を出しているのも、パワータップ(ハブ)を用いたゾーン強化という基本にフォーカスして取り組んでいる結果である。

パワーベースのペダリング解析は、現時点では未確立の理論だ。強くなるためにパワーメーターを導入したのなら、シンプルかつ確実なゾーントレーニングをお勧めしたい。

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Tim Smith(USAC/全米自転車競技連盟Level 2認定コーチ)
産経デジタルCyclist 【PowerTap Column <5>】より